ホテルに荷物を置きに行くのも面倒くさい。

とにかく晩ご飯じゃ。

 

 

駅前をふらつく。

店を選ぶのは楽しくもあるけど、不安もある。

 

 

気が弱いので、1人で入れる店が少ないのです。

36歳の男なんだから、居酒屋でもどこでも入れるのだが、

いつもドキドキしてしまう。

 

松本の夜に1人で店を探した事は、かれこれ10回はあるだろうか。

居酒屋のようなところに入った事は一度も無い。

 

 

同じ松本で仕事をしている仲間がオススメしていた焼鳥店を見つけた。

東京にも系列の店はあるので珍しくは無いのだけど、まあ良いか。

 

入り口から中を覗くと・・・こ、混んでる。

 

 

たちまちUターン。

 

周りを見渡すと、まだまだ居酒屋はある。

 

おしゃれなイタリアン、焼き肉、大衆チェーン店。

 

更にカレー屋、牛丼屋、コンビニ・・・。

 

まさか、って思うでしょ?

でも選択肢には入るんです。

 

この街では無いけど、

旅先でカレー屋にも牛丼屋にも入った事はあります。

 

松本に来たのに、コンビニのおにぎりで済ませた事もあります。

 

はぁ~、情けない。

 

重い荷物が気持ちを萎えさせるのかな・・・。

 

一度ホテルに戻るか。

あれっ?そういえば、ホテルの1階の居酒屋、

ラストオーダーが11時ってなっていたなぁ。

 

外の店に入るよりは気が楽かも。

どうせ何品も頼まないから、お酒をおつまみと締めのご飯をいっぺんに頼んで。

 

 

・・・決めた。

 

大股&早歩きでホテルへ向かう。

 

 

キャバクラの客引きが、次々に声をかけてくる。

そりゃ、そうだよな。

男が1人、半袖のワイシャツで大きな荷物を持っていたら

どう考えても遠くから仕事で来たと思われる。

 

こんな時くらいハメを外して・・・なんて思いそうなものだ。

 

僕に近付いてくる。

「お兄さ~ん、お店お決まりですか?」

 

聞こえそうな鼻息を立てて、僕が横切る。

相手の靴を踏みそうな勢いに、相手がひるむのが分かる。

 

すみませんね、お兄さん。

声をかけた相手が悪かったよ。

僕は腹が減っているんだ。

キャバクラに僕のお腹を満たすものは無いんだ。

 

そもそも、キャバクラに払う余分な金があったら

青春18きっぷで旅なんかしない。

・・・別に節約のためだけでも無いけど。

 

 

でも、僕は腹が減っているんだ。

バスに乗るのに待たされたんだ。

乗ったバスの運転手が道を知らなかったんだ。

 

たぶん僕を無理に止めたら、このストレスを全部キミにぶちまけるぞ。

 

 

あっという間に繁華街を抜け、ホテルの近くまで来た。

 

 

「ホルモン」

 

 

ちょうちんの文字が目に入った。

 

 

ホテルのすぐ隣り。

こんな店あったっけ?

 

気にした事が無かった。

 

 

でも1人焼き肉はなぁ。居酒屋でも入れなかったのに。

 

店の前まで行ってみる。

「松本ホルモン」

店の名前に地名が着くだけで、少し興味が湧く。

 

例によって、外から様子を伺う。

店が2階や地下なら、ちょっとハードルが上がるな。

 

中の様子が見えた。

カウンターだけの席が10席くらい。

焼き肉屋というより、バーのような佇まい。

 

そのカウンターの上に1人サイズの網が置いてある。

最近流行りの「1人焼肉」みたいだ。

テレビで見たのとは、この店の雰囲気は全然違うけど。

 

奥の席で男性が一人で何か食べている。客は1人のようだ。

メガネをかけたママさんが1人で切り盛りしているようだ。

 

もう店じまいだったら悪いな。

ドアを見る。「OPEN」の札は確かにかかっている。

 

10分くらい考えた。

よし!旅の恥はかき捨てじゃ!

思い切って、ドアを押す。

 

「いらっしゃいませ~」。

ママさんの声と共に、座っていた男性の声がハモって僕に返ってくる。

 

出た。

 

そのパターンか。

 

じゃあ、客は僕1人じゃん。

でもママさんの声の感じからして、まだ閉店までは時間があったようだ。

 

入ってしまうと、少し気が楽になる。

 

カウンターの真ん中から、少し入り口寄りに座る。

まずはビール。

 

せっかくだから、ホルモン屋らしいものを食べたい。

「ハツと、上ミノと、ハラミをお願いします。」

 

これで、後でビールのおかわりかご飯を頼めば充分だろう。

 

「ごめんなさ~い、ハツと上ミノは終わっちゃったんです。」

ガ~ン!!2/3ってかなりの不運だぞ。

 

実はほとんどのメニューが無かったりして。

 

「今無いのは、ハツと上ミノと・・・」

あと3つくらい言ってくれたけど、覚えていない。

 

肉のメニューは30種類くらいあるから、何とかなりそう。

僕はグルメじゃないので、「○○が無いならいいです。また来ます。」という事は

めったにしない。

 

でも、今年松本に来た時に同じような事があった。

 

その時は、長野らしいものがとにかく食べたくて、

最低でも馬刺しか、名物の山賊焼き(鶏の竜田揚げのようなもの)が食べたかった。

今日と同じように居酒屋にトライしようとしたが、

20分くらいグルグルしたあとに諦めた。

 

結局、駅前にあったカウンターだけの、飲めそうなうどん屋に入った。

外から「山賊焼」の文字が見えたから。

 

ビールと山賊焼を頼んだら、

「ごめんなさ~い!山賊焼だけ終わっちゃったんです。」

 

どうやら、僕は松本の名物に縁が無いようである。

 

まぁ、試合が終わって遅い時間になっている事もある。

それに1人で居酒屋に入れれば何の問題も無いんだけど・・・。

 

そんな事を考えていたら、ビールが出てきた。

肉は、ガツ・ハラミ・テッポウを注文。

 

ふぅ、一安心。

なんで晩ご飯食べるだけで、こんなに疲れるんだ。

 

ビールを置くと、ママさんはおもむろにホルモンの準備を始める。

それぞれ味付けも違うけど、大きな1人分のお皿に乗せてくれる。

 

ガス管が繋がった1人用サイズの網に火が入る。

お~!!何だかテンションが上がってきた。

記念すべき、初・1人焼肉。

 

あとは、ひたすら無我夢中で焼き、食べた。

ママさんは、必要な物を出したら、カウンターの一番向こうで

テレビを見ながら、さっきの男性とああだこうだ話している。

 

良かった。

こっちも気楽に食べられる。

 

こういう時、気を遣って僕の話し相手をしてくれようとするんだけど、

僕はこういう方が好き。

だって、ずっと前にいられると、こっちも気を遣って焼肉の味が分からなくなるから。

 

焼く、飲む。遠くからテレビを見る。

 

ビールを飲み終えたところで、焼肉がまだ半分以上残っている。

ビールをお代わりするか、ご飯を頼むか。

10分迷ってご飯とキムチを注文。

 

ママさんが「えっ?もうビール終わり?」っていうリアクションをしないか

すごく心配だったけど、全く無かった。感謝。

 

でも、運ばれてきたキムチが想像以上に多くて、ご飯とのバランスが合わない。

 

結局遅れて2杯目のビールも注文。

ホルモン、ご飯、キムチ、ビールの夢のコラボレーションを満喫。

 

結局、帰るまでママさんは余計な事を何も言わなかった。

人見知りには、一番の接客でした。感謝。

 

お礼に精一杯の気持ちを込めて

「美味しかったです。」と言って出てきた。

 

ホテルに戻って部屋に荷物を置いたら、2分後には大浴場へ。

大浴場と言っても5人入ればいっぱいになる湯舟。

でも、誰もいなかったので貸切状態。

 

部屋に入ったら、30分もしないうちに眠りに落ちていた。

 

翌・8月17日月曜日。

6時20分に起床。全ては計算通り。

 

7時48分発の信濃大町行きで出発する予定。

そのためには、7時からホテルの朝食を食べたい。

気ぜわしいのは嫌だ。

でも、せっかく泊まったんだから、朝風呂も。

欲張りな私です。

果たして、朝風呂も貸切状態であった。

5人分の風呂を独占。

 

意気揚々と部屋に戻り、カーテンを開けると・・・雨。

しかも本降り。雨の音が聞こえるくらい。

 

なんだよぉ。

これから信濃大町で先祖の墓参りをするのである。

お墓をきれいにして、お参りをして、

そして、もう1つのミッション。

 

以前行った時に気になっていた、隣りのお墓との間に茂った枝を切る。

 

そのために剪定ばさみまで持ってきたのです。

 

剪定ばさみを持ってサッカー場に行ったら、絶対に捕まるので、

昨日はちゃんとホテルに預けておいた。

そんなリスクと、重い思いをして持って来たのに・・・。

 

一瞬、このまま東京に帰ろうかと思う。

いや・・・結構長い間迷っていた。

 

でも、とりあえずご飯。

このホテルの名物の和定食は、茹でたての野菜がついてくる。

これに特製の味噌を付けて食べる。

うまい。

野菜の甘みがどんどん引き出されてくる。

ご飯がどんどん進む。

 

膳には立派な鯖の塩焼きや温泉卵もあるが、

主役は野菜。取り放題の野沢菜や赤カブの漬物。

きゃらぶきも絶品。きのこたっぷりの赤だしもある。

 

ご飯をたらふく食べてくれと言われているようなものだ。

 

そこへ、どんどんと人が入って来る。

昨日も今日もお風呂では誰にも会わなかったのに、

家族連れが次から次に朝食会場を目指す。

 

隣りで1人だったサラリーマンの男性。

4人がけのテーブルには、向かいにカップルが座って相席となった。

 

これは僕も時間の問題。

別に相席は良いのだけど、4人用の席を1人で独占するのが悪い。

 

ここも気が弱いんです。

 

結局、ご飯はお代わりせず。

大量の漬物はお茶と共に頂きました。

 

でも、ご飯1回くらいはお代わりしても良かったかな。

 

でも、お代わりのつもりで席を立った僕を見たら、

ホテルの人は「よしっ、席が空いた!」と思うだろう。

そして僕の手の茶碗を見て、「なんだ、まだいるのか」と落胆するはずだ。

 

いつもホテルの朝食会場では、こんなことが気にかかる。

だから、茶碗やお皿を持たずにお代わりを取りにいく場合(フルーツなど)、

ものすごく急ぎ足で取りに行く。「まだいますよ」オーラを出す。

 

結局、誰にも何も言われていないが、7分で朝食を済ませた。

 

おかげで、時間に余裕を持ってチェックアウト。

ここまで来たのにお墓参りをしないのも悔いが残るので、信濃大町へ向かう。