5/7SPO-NOW「聖’sフォーカス」
2016年05月13日
5月7日(土)NACK5「SPO-NOW」の
コラムコーナー「聖’sフォーカス」でお話した内容を載せます。
※一部、放送と違う表現もあります。ご了承下さい。
このゴールデンウィーク、僕は、また初めてのスポーツに出会って来ました。
「日本・視覚障害 柔道連盟」による、リオデジャネイロ・パラリンピックの
柔道・日本代表選考大会です。
場所は、柔道の総本山である東京・文京区の「講道館」。
僕が事前に持っていた知識は、この大会で各階級を制した選手が
リオに推薦される「一発勝負」であるという事。そして、
ルールでは健常者の柔道と違って、視覚障害者の柔道は、両者が
お互いに組んでから「はじめ」の声がかかるという事です。
会場に行くと、中央の畳を囲んで四方に審判団と関係者、
そして報道陣が囲み、その報道陣の後ろで選手達が練習を行っていました。
この日、行われた階級は男女合わせて6つ。
渡された資料には、所属団体名や年齢と、柔道の段位、そして視力が
4段階で紹介されています。年齢は、下は18歳から上は53歳まで幅広く、
階級によっては、この日の決勝リーグの出場者が2人で絞られていて、
初戦で勝った方がリオの資格を得るという、文字通りの一発勝負もありました。
入場する際は審判が選手の腕を持ち、2人が組んだ状態から試合が始まります。
まず驚いたのは、「はじめ」の声と共に、激しく、スピーディーな技の応酬が
始まった事です。両者が組むまでの駆け引きが無いので、
いきなり勝負を決めにかかるんです。
その動きの速さは、とても目に障害があるようには感じません。
そして両者が離れると、主審が「待て」を宣告し、試合開始の位置に戻ります。
その時に、両肩を持たれて位置に戻る姿を見て、これが
視覚障害者の柔道なのだと思い出すほどです。
ルールで付け加えると、本来の「場外」の規定はありませんが、
線の外に近付くと審判が「場外!」と声をかけ、知らせます。
そして仲間のスタッフは「あと4分半」などと声をかけ、
選手はそれを頼りに戦います。1試合の時間は5分。
スコアが同じの場合は、時間無制限の延長戦に入る、
なかなかハードなルールです。
この日、見事にリオへの推薦を獲得した
男子73キロ級・24歳の北園新光(きたぞの・あらみつ)選手が話していたのは、
健常者の柔道と違って試合開始から組むために、とにかく
ずっと力を入れていないといけないこと。
少しでも気を抜いたらやられる、という意識との戦いなのだそうです。
通常の柔道でもある事ですが、相手の表情を読めない分、
相手の柔道着を持った手に全ての感覚を集中するのでしょう。
そんな北園選手、、元々は健常者の柔道をしていました。
しかし、大学入学を前にした今から6年前、「網膜・色素・変性症」の診断を受け、
心が崩れるような感覚に襲われたと言います。
それでも、小さい頃から続けてきた柔道の縁で、
パラリンピックを目指してみないか、と誘いを受けメキメキと力を発揮。
診断からわずか2年後のロンドン・パラリンピックに出場し、
100キロ級で、初出場7位入賞の結果を残したのです。
北園選手はその後、大学の4年間で、グローバル社会での
「異なる価値観を持った人々」からも意見を聞き、理解する大切さ。
そして、意思の疎通を諦めない事の大切さを学んだと言います。
なかでも、ロンドン・パラリンピックの会場で満員の観客が、
選手へのリスペクトを込めた声援を送るのを聞いた時、
「もっとタフなコミュニケーションを身に付けたい」と思い、
今は視覚障害者の福祉財団で働きながら、選手として活動しています。
一方、今回の大会で、男子90キロ級で選出された
廣瀬悠(ひろせ・はるか)選手と、
同じく、女子57キロ級の廣瀬順子(じゅんこ)選手は、
昨年12月に結婚したパラ・アスリート夫婦です。
今回は、見事、夫婦揃ってリオへの切符をつかみました。
この日、多くの取材陣に囲まれた二人は、笑顔を見せながらも、
はっきりと語りました。
「夫婦で出場するのは珍しい事だと思います。
皆さんに注目される間に、もっと良い結果を。
パラは、出場して終わりではなく、結果を残すことが全てだと思います。」
以前はパラリンピックでメダルを量産していた日本の柔道ですが、
北京とロンドンでは、ウズベキスタンやウクライナの台頭もあって
メダル1個に終わっています。
リオ、そして東京へとパラリンピックでも「お家芸復活」へ、期待しましょう!!