初めての夏の甲子園を見に行き、その興奮覚めやらぬうちに見付けた本。

 

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今もメジャーで活躍する松井秀喜選手が

石川・星陵高校3年で出場した夏の甲子園。

その2回戦で対戦した高知・明徳義塾から5打席全てで敬遠された事は、

当時の僕には『事件』にさえ写った。

明徳義塾の監督や選手に対する批判が起き、

当時の僕もそれに似たような感情を持った記憶がある。

 

では、その当事者たちは、どのような気持ちであの場面を迎えていたのか。

文中からは、当時報道されていたコメントのうち、

本意で無かったものが多くあった事が感じ取れる。

たぶん、その試合の記憶がある人ほど『えっ、そうだったの?』と言いたくなる証言だろう。

 

それらについて、本当に丁寧な取材がなされている。

取材対象の説明、取材が実現するまでの経緯。

本編である当人へのインタビュー、さらにはその言葉を

周りの人達や同じ立場の人にもぶつけ多角的に検証する。

両校の選手や監督、そのライバルたち、そして放送の現場で試合を見ていた人たちの証言も。

 

その証言内容は、とても自然に感じる。

正直に、思っていた以上でも以下でも無い、ありのままの言葉を集めたドキュメンタリー。

読んだ人によっては『期待した答えと違う』となるかもしれない。だからこそ、伝わる気がする。

 

その中で、何人かの証言に通ずるのは『野球観』とは別の『高校野球観』。

つまり『勝たなければいけない戦いなのだから敬遠も当然』という考えと、

『選手のこれからの事を考えたら勝負させるべき』という考え。

 

それぞれの考えには説得力がある。

それは自身が信念に基づいて実行し、結果を残してきたことにも繋がっているだろう。

 

読んでいけばいくほど、一つの試合の背景にこんなドラマがあるのかと思う。

派手なドラマでは無いが、その場に関わったひとりひとりにドラマがあるのだと分かった。

読む者を引き込む文章の力は、山際淳司さんの『江夏の21球』を思い起こさせた。