1月の恒例となった、立川志の輔さんの渋谷PARCO一ヶ月公演。

僕も2年ぶりに行って参りました。

志の輔さんは、僕にとって「落語との出会い」のきっかけとなった方です。

といっても、お目にかかった事はありません。僕の一方的な思い入れのみ(笑)。

中学の頃に文化放送でやっていた「志の輔ラジオ気分がいい」という番組を

僕が大好きで聞いていたのが、噺家さんを知ったきっかけ。でも今考えると、

「気分がいい」は月曜〜金曜の朝9時〜11時までやっていた番組なんです。

なぜ僕が聞けたんだ(笑)まあ、そんな事は置いておいて・・・。

 

いきなりこんな事を言うのも何ですが、このPARCOの会のチケットは6000円。

独演会のチケットとしては、やや高めです。

言い換えれば、人気のある噺家さんのチケットだからこそ設定出来る金額。

でも今日の僕は、開演5分にして『このチケットは安すぎる』と思いました。

“今回も”安すぎると思いました。年々プラチナチケット化していくのも仕方無いなぁ。

 

というわけで、ここからは中身の話をするので、もし

「これからPARCO公演に行くよ」という方は、見ないで下さい(笑)

ご自身で行ってきた後に、僕の時の内容と見比べて下さいね。

 

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まずは、『通常国会初日という大変お忙しい中をお越し下さいまして・・・』と、

恒例の時事ネタでツカミ。

お正月に富山に帰った時の話から、その時に道の途中で見つけた建設途中の高速道路、

そして事業仕分けの話に展開すると、まさにその渦中の人を題材にした

新作「身代わりポン太」。

 

国からの助成金をもらって、タヌキの巨大な展望台を作ろうとした村のお話。

学生時代の同級生だった村長さんと、展望台を建設する会社の社長さん。

そこへ、もう一人の同級生である県議会議員がやってきて

「国からの金が凍結された」と通告します。しかし、第一次の資金を使って

展望台は下半分が既に完成。しかも、「タヌキをかたどった展望台」だから下半身だけ(笑)

完成させる金も壊す金も無い、と困り果てたところに、それを聞いていたおばあさんが話しかけます。

 

「昔、この村にたぬきの神話があってなぁ・・・人にいたずらをした罰で、

上半身と下半身をまっ二つにされたタヌキがおった。

上半身を探していたタヌキを不憫に思って、村人がタヌキの上半身を見つけてあげると

タヌキがお礼に表れて、人の身代わりになってくれるようになったそうな。」

初めて聞いた話に周りが驚いていたが、実はこの話、おばあさんが思いついた全くの作り話(笑)

 

つまり、架空の神話をでっちあげて「下半身だけのタヌキ」を名物にしてしまおう、と

話が展開していくのです。奇想天外で、なおかつ現代を風刺した「志の輔らくご」ならではの作品。

しかも、中入りのロビーには、ご丁寧に「ポン太せんべい」がお土産で売られていました。

会場全体が演目とコラボしてしまうのも「志の輔らくご」の楽しみの一つです。

 

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続いては、志の輔師匠の新作の中でもお馴染みの作品「踊るファックス」

新春セールの薬局で間違って届いた、若い女性からの自殺をほのめかすファックス。

それを見た薬局のおやじが、なんとか説得しようとファックスで返事を書くのですが、

それに対して、なぜか逆ギレの返信ファックスが次々に届く。

それに対抗しているうちに、ファックスを使った大ゲンカに。

いつの間にか、おやじは「自殺でも何でも勝手にしろ!!」

相手は「誰が死ぬもんか!!おまえよりも長く生きてやる!!」と

あべこべになってしまう、というお話。日常にありそうな笑いが詰まった

誰にでも楽しめる作品。だから、志の輔師匠の落語は

「初めて落語を見る人にオススメ」と言われるんです。

しかもPARCO恒例、舞台装置のサプライズが・・・。

この「踊るファックス」が終わった途端に、舞台の壁から

「ここで15分間の休憩」と書かれた巨大なファックスが登場(笑)

PARCOは毎回、こういう大がかりな仕掛けがあるんです。

以前に、志の輔らくごの新作「メルシーひなまつり」をやった時は

巨大な人間ひな壇が舞台に登場した事もありました(笑)

 

さて、笑いすぎた体を冷まそうとロビーへ出た僕はお土産を購入。

このPARCO公演が初めてDVD化されたんです。

 

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これは自分で見るだけでなく、まだ行った事の無い人に見てもらいたい!!

という意味もあって買いました。なので、僕の知り合いの皆さん、興味があったら貸しますよ(笑)。

 

さて、休憩後の3席目は、まくらの途中で出た人物の名前に

会場の一部から「おっ、これはひょっとして・・・」とざわめきが起こりました。

古典落語の大作「中村仲蔵」。新しい歌舞伎史に残る実話。人情味たっぷりの芸談です。

 

人気狂言「忠臣蔵」の上演にあたって、中村仲蔵に回って来たのは五段目の斧定九郎。

ようやく名題になったのに、貧相な山賊の役を回された仲蔵は落胆します。

しかし、女房のお岸に励まされた仲蔵は、蕎麦屋で偶然出会った貧乏侍から

役作りの着想を得るのです。

 

そして芝居の初日、度肝を抜くような新しい定九郎を見せられた観客たちは、

あまりの見事さにうなるだけ。しかし、それを演技の失敗と勘違いした仲蔵は、

失意のままに自殺も考えながら上方を目指します。

だが途中で芝居帰りの男が仲蔵を絶賛しているのを耳にして…。

 

聞き所は、とにかく仲蔵の心の動き。世間を驚かせた奇抜な扮装や、

水を滴らせながら駆け入って見得を切るシーンなど、細かな描写と華やかさ。

さらに舞台のシーンでは、仲蔵が花道に登場するシーンに合わせて

真っ暗な会場の左一列に、縦の照明が入るのです。PARCOならではの「花道」の演出。

しかも、長唄まで本物のお師匠を呼ぶという徹底ぶり。

そしてクライマックス、亭主を励ます女房のお岸や、師匠中村伝九郎の言葉に

それまでシーンとしていた会場からは、すすり泣きの声が次々に聞こえました。

まさに究極のサクセスストーリー、笑って笑って、最後に泣いて。

志の輔らくごの醍醐味を満喫しました。

 

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こちらは、DVDを買った特典で行った抽選で頂いたクリアファイル。

過去の「志の輔らくご」の時に作られたオリジナル版です。

これまでは、2年前の公演でもらったクリアファイル(このブログの一番始めに出てきた物)

だったのですが、さすがにボロボロになっていたので、ここで選手交代。

なんだか、また良いことがありそうです。

 

先日発売された文春ムック「今おもしろい落語家ベスト50」では、

1位の柳家喬太郎さん、3位の柳家小三治さんに挟まれて2位だった志の輔さん。

まだ聴いた事が無いという方、聴かないと損ですよ!!

・・・言いながら、これ以上チケットが取りにくくなったら困るけど。