東京「新」列車を追え!!(上)
2008年06月28日
それは、朦朧とした頭での考えだった。
ムクムクと起きあがって、時計を見る。
あと数分で11時を回ろうとしている。
少しずつ記憶をたどってみる。
昨日は夕方まで、打ち合わせのために千葉にいた。
全ての予定を終えて帰路に就こうとした僕は、
夜9時という時間と、蒸し暑さが多分に影響した
喉の渇きに背中を押されて、いつもの店に入った。
すると、同席した方と意気投合し、そのまま
店のマスター、ママさんと共に2件目のお店へ。
存分に食べ、存分に飲み、帰宅したのは3時前だったか。
すぐに休んだが、9時にセットした目覚まし時計は
一時的な覚醒効果しか示さず、二度寝した私は
更に2時間近く夢の中だったのである。
11時という時間に「今日が半分終わった」という自責の念を持ちながら
もう一人の自分は違うことを考えていた。
今日の予定は、それほど多くない。そして、取り急ぎやることもない。
来週の後半からは、自分が東京で自由に時間を使えることが
少なくとも1ヶ月以上無くなる。高校野球の間は。
だとするならば、少し贅沢な時間の使い方をしても良いのではないか。
携帯電話のスケジュールの欄には、近いうちに実践したいこととして
乗りに行きたい鉄道の名前が書いてあった。
「舎人ライナー」「副都心線」
どちらも、首都圏の鉄道網に、最近新たに加えられた名前である。
せっかくなら、思い切り自分の事に使ってしまおう。
決断した後は早かった。
さて、昼過ぎの地下鉄に乗って、この後の行程を考える。
普段なら、効率の良い周り方、値段の安い周り方、
ちょっとした検索サイトよりも効率よく導き出せる自信がある僕だが、
私の背中には、昨夜飲んだビールと梅酒が、大きなおもりになっている。
行程よりも、この二日酔いを解消するための昼食を考える。
すぐに浮かんできたのは上野駅。
大概、私が宇都宮に出発する午前5時半過ぎに
駆け足で乗り換えることが多いこの駅には
「おにぎり」「そば」と、なんとも胃に優しい
メニューの看板が多く出ていた記憶がある。幸い、舎人ライナーの起点・
日暮里駅への経路上にある事も、もちろん理由になった。
かくして上野駅で、おにぎりでもそばでも無く「さぬきうどん」を流し込み、
最初の目的地の日暮里に着く。
見ると、JRのホームにある「舎人ライナー」の案内は極めて小さい。
常磐線や京成線と違って、改札を出て乗り換えるためか。とはいえ、
改札を出ても、その文字の大きさは、近くにある行政の建物の案内にの大きさに
全く歯が立たない。
とはいえ、まだ新しい通路を抜けエスカレーターで上階へ向かうと、
ほどなく開放感のある乗り場が迎えてくれる。予想通り、乗り場の雰囲気は
お台場方面の貴重な足「ゆりかもめ」に近い。まだ慣れない客が多いせいか
係員が2〜3人、券売機の前に立って説明にあたっている。
改札を抜けホームに出る。
土曜日の昼という事もあってか、家族連れが多い。
2面あるホームの片方に既に落ち着いている列車の席は既に埋まっている。
と、ここでカメラを車体に向けようとしたが、そこは「ゆりかもめ」と同じく
無人運転の乗り物。全面ガラス張りのために、納得のいく写真は撮れない。
次の列車の入線を待つことも考えたが、10分間隔という事を考えて、
とりあえずは乗り込むことにする。
無人運転の大きな魅力の一つは、運転席が無いので前方の見晴らしが
バツグン・・・というのは、やはり多くの人が思うことのようで、一番前の車両は
多くの家族連れで大混雑。とはいえ、乗客のうち7〜8は、地元の人のように見える。
そんな事を考えているうちに発車した舎人ライナーは、日暮里駅周辺のビルの間を
縫うように走る始める。しかし、次の西日暮里を出ると、次第に速度を上げると
その景色も様変わり。荒川を渡ると、左手に首都高速川口線が併走。今まで
陸の孤島と言われた地域だけあって、特に遮るものも無く、まっすぐに進んでいく。
目立つ建物は高層マンションと大型家電量販店。そして、学校や公園も目に付く。
「扇大橋」「江北」といった、ラジオの交通情報ではお馴染みの地名を抜け、
終点の見沼代親水公園へ。所々で改札を出て、街を見ながら1往復してみたが、
発展する街の姿と、下町の風情が同居する、とても魅力的なエリアだった。
地元の利用者が多く見られた事にもホッとして、帰りは日暮里の一つ前の
西日暮里で下車。今後の行程を考えて、千代田線への乗り換えのために
こちらの駅を選んだのだ。改札を出ると、地上と舎人ライナーの間を抜けるように
歩道橋が続いている。その突き当たりから周りを見ると、ぐるりと囲むように
京成線・常磐線・舎人ライナー・そして遠くには宇都宮線や山手線も見えるのだ。
そして、歩道橋の階段からガラス越しにカメラのファインダーを覗く男性。
つい声をかけてみると、地元に住む方だった。「普段は車を使っているんだけど、
駅が新しく出来たおかげで、街の違った顔が見られるようになったからね。
いろんな角度から街の様子を撮るのが好きなんです。まあ、今日もいっぱい来ている
鉄道ファンとは違うけどね」優しく気さくに話してくれる、40代くらいの男性。
その話し方が穏やかで、街に合っているような気がした。横に並んで10分くらい。
きままに電車が過ぎるのを待ち、そしてシャッターを切った。