9時02分。定刻に新宿駅を出発。

見慣れたビル街も、2階席の大きな窓から見上げると違って見える。

鉄っちゃんで良かったと思う瞬間です。

 

車内アナウンスが流れ出す。

停車駅は、三鷹、立川、八王子、高尾、相模湖、大月、勝沼ぶどう郷、

塩山、山梨市、石和温泉、甲府、韮崎、小淵沢。

 

高尾と相模湖以外は、ほとんど特急「かいじ」と同じ。

なのに特急料金不要、青春18きっぷでOK。

やったね。また鉄っちゃんの優越感。

 

 

でも、ちょっと待て。

それしか止まらないのに、なんで小淵沢まで3時間もかかるの?

「あずさ」なら、ずっと先の松本まで2時間40分だよ?

 

・・・はは~ん、どこかで長く止まるな。

鉄っちゃんの勘です。

 

特急料金も取らず、2階建て列車で小淵沢までゆったり行けるなんて、

どこかでウラがあるに決まってる。

 

週末の臨時列車だし、毎日走る特急に抜かされるために

どこかで10分停車とか、あるんじゃないの?

 

まぁ、こっちは、その辺も覚悟の上で乗っていますけど。

 

 

 

少し徐行気味で三鷹に停車。さっき反対側にいた中央線の快速(ここから各停)を

ここで抜かすと、少しずつスピードが上がってくる。

 

立川、八王子。ここで完全に空席が無くなる。

 

 

と言っても、席に荷物を置いている人が多い。

新宿駅で僕の前にいた夫婦なんて、2人並んで座って、

前の2席に両方荷物を置いている。

 

大きな荷物を持った若者が乗ってきて、席を探してウロウロしているのに

譲らないのかよ・・・イラッとする。

僕、ほぼ毎日こんな感じでイラッとしてます。

 

でも、肝心の若者はドア口に立ったまま大声で話し始めた。

諦めたのか、それとも座らなくて良いくらいに体力が有り余っているのか。

その笑い声がうるさい。

 

後ろの兄妹は寝てしまったけど、その子たちが起きないか心配になるくらい、うるさい。

 

前のブロックでは、年配の男女3人組が談笑中。

うち1人の男性が、飲み終わったドトールのアイスコーヒーのカップを、

ずっとカラカラ振っている。

 

氷の音が、うるさい。

そんなもの、窓際に置いておけば溶けるって。

イライラの連鎖。

 

降りようかな。

高尾で降りて、普通列車に乗り換えようか。

でも、その列車でも同じくらいうるさかったら、もっと悲劇だし。

 

 

気持ちを切り替えて車窓に集中する。

あ・・・この辺、トンネルが多いんだった。

 

 

それにしても、遅い。

山沿いというのは分かるけど、スピードが上がらない。

時速50キロも出ていない気がする。

これじゃ、普通列車の方が速いんじゃない?

 

でも大月に着いても、「遅れています」等のアナウンスは無し。

 

これで定刻なのか。じゃあ、やっぱり特急に抜かれるな。

 

 

大月で富士山・河口湖方面の人がどっと降りると思っていたら、そうでも無かった。

みんな、どこで降りるのだろう。

僕みたいに乗り継いで松本、って人は少ないと思うけど。

 

 

斜め前の席のおばあさんは、八王子あたりで携帯に電話があって

「うんうん、もう乗ったから。もうすぐ降りるから」と言ったが、

もう1時間以上乗っている。

電話の向こうの人は、迎えに来るのかな。

ちゃんと時間を伝えているのだろうか。

 

 

大月を出て富士急行線の線路を見送ると、それまでのトンネルが続いていた景色から

左手が大きく開けてくる。高台を走るようになり、遠くの山々まで一望だ。

右手に見える山並みも美しいけど、左手は空の青さまでよく分かるので勝ち。

これを読んで、左手の席を確保したのです。

 

 

勝沼ぶどう郷でまとまった人が降りた。

 

以前は「勝沼」という駅名だったが、ぶどうの産地、

そのぶどうを使ったワイン作りも盛んということで変えたのが

功を奏しているみたい。

沿線のぶどう畑にも実がなっていて、

身を守るための紙?がかけられているのが分かる。

 

 

駅のすぐ左下には公園があって、機関車が保存されていた。

 

EF64だ。

 

今も現役で走っているが、全盛期は碓氷峠。信越線の横川と軽井沢の間を

全ての列車の前後について、重連で登っていた。

信州の鉄道を語る時に欠かせない機関車。

既に歴史上の機関車になりつつあるのか。

 

 

ここからは、塩山、山梨市、石和温泉、甲府と、小刻みに止まっていく。

といっても、特急「かいじ」と同じ停車駅。

 

降りてゆく人を見ていると、明らかな観光客は3割くらい。

あとは同様の客なのか、地元の人なのか。

仕事、という感じの人はさすがに少ない。

 

 

このあたりも、平日になれば立派な通勤圏である。

僕だって山梨で仕事があれば喜んで通う。

毎回列車で(しかも適度な旅気分を味わいながら)通う仕事なんて最高だ。

週1でも、週2でも・・・。

 

そして甲府に到着。新宿から約2時間10分。

ここで車内の客は、2割くらいまで減った。

 

斜め前のおばあさんも降りた。

あの電話から1時間半以上経っているけど、迎えの人は怒って帰っていないかしらん。

 

 

もう乗ってくる気配も無いので、靴を脱いで足を反対側の席に伸ばす。

 

これ、向かい合わせの席での一番の喜び。

 

一気に旅気分が盛り上がってくる。

温かさに身を任せて寝るのも良い。

ぼーっと景色を眺めるのも良い。

 

とはいえ、少しでも人が乗ってきそうになったら、早々に足を下ろします。

 

次の停車駅・韮崎では一度足を下ろす。

駅の左側に大きな観音様が見下ろしているのだ。

 

何だか失礼があってはいけない気がして、ここで止まると手を合わせます。

周りは誰も気付いていないみたい。

僕がご利益独り占め。

 

でも、韮崎を出たところで、ふと気がついた。

 

次の停車駅は終点の小淵沢。

各駅停車に乗っても25分で行けるのに、まだ残り30分もある。

 

抜かれるな。特急に。

 

 

予想通り、日野春駅で止まる。

「特急列車の通過待ちを致します。」

終点・小淵沢の2つ前での停車。

運転停車なので、ドアは開かない

マラソンなら、競技場に入ってから優勝候補の本命に抜かれるようなもの。

 

 

次は終点なんだから、先に小淵沢に行っちゃっても良いんじゃないの?

と思われそうだが、これには訳がある。

 

終点の小淵沢で「ビューやまなし」が着くホームは、松本方面の下りホーム。

終点なので降りる人が多く、それなりの時間ホームに止まらなくてはいけない。

しかし、後ろから来る特急にとっては、これがジャマになってしまう。

そこで終点の前で、先に特急を通してしまうのだ。

 

 

・・・という事を頭の中で解説してみるが、1人旅なので説明する相手は無し。

イライラして文句を言う人がいたら、行って説明してあげようと

心の準備だけはする。

 

 

せめて、せっかく駅に止まっているのだからドアを開ければ良いのに、

と言われた時のための妄想解説を考えたところで、横を「スーパーあずさ」が通過。

 

約1時間後に新宿を出た特急に、ここまで抜かれなかったのが不思議。

たぶん、そう思っているの、この車内で僕だけだけど。

 

日野春を出ると、すぐに終点の小淵沢に到着。

11時59分、定刻。あのノロノロも想定内だったのですね。

 

 

ホームに降りると、ものすごい人の数。

こんなに乗っていたの?というくらい。

大半の人が大きなリュックを背負っている。登山客のようだ。

 

そのうち半分は、階段を渡って小海線のホームに向かった。

清里、野辺山方面に向かう臨時の高原列車が接続しているからだ。

 

僕はというと、次の普通列車まで約40分の乗り換え時間。

まずは、階段を通って改札横のトイレへ。

少し前から我慢していたのです。だって、列車のトイレ混んでいたし。

 

済ませて出てくると、トイレの外は大行列。

でも、切羽詰った感じの人はいない模様。

 

 

次は昼食。改札横を除くが、立ち食いそばと駅弁屋にも人だかり。

ここで駅弁を食べる予定だった僕は、小海線のホームへ。

 

実は小渕沢は、知る人ぞ知る、駅弁で有名な駅。

「丸政」さんの2大名物駅弁、「高原野菜とカツの弁当」と「元気甲斐」。

元気甲斐は愛川欽也さんのテレビ番組「探検レストラン」から生まれたもの。

 

そしてもう1つ。昭和45年発売のロングセラー。「高原野菜とカツの弁当」

僕が小さい頃から慣れ親しんできた弁当なのです。

 

 

小海線の駅弁屋さんには、2つしか残っていなかった。セーフ!

 

 

周りは人が多いので、中央線の待合室に戻ってフタを開ける。

 

中には大きなチキンカツがゴロっと2つ。

 

でも、それ以上の面積の生野菜が主役です。

特にレタスとセロリがウマイ。

全国の駅弁で野菜のシャキシャキ感をウリにした駅弁って、珍しいでしょう?

 

しかも、カツ用のソース・からしとは別に、

生野菜用にドレッシングと塩まで付いている。

 

人がいないので、僕の周りにフタや調味料を広げながら、いただきます。

野菜、野菜、カツ、ご飯、

野菜、野菜、時々スパゲティ(付け合せ)、

カツ、ご飯、ゴボウの浅漬け、野菜、野菜・・・懐かしい。

 

 

無我夢中でがっついていたら、待合室に人がドッと入ってきた。

 

慌ててスペースを空ける。さっきまで貸切だったのに。

それでも大満足。

デザートのリンゴまで(少し乾いていたけど)美味しく頂きました。

 

 

40分の乗換えを有意義に使って、後続の普通列車に乗り換える。

小淵沢始発では無いので、座れない事は覚悟する。

それにしても、ホームに人が増えてくる。

 

大きなリュックを持った人は相変わらず多いが、

カメラを持った人に、紙袋を持った人・・・?

 

鉄道マニアというより、秋葉原のにおいがする。

 

長野でイベントでもあるの?全くの謎。

 

 

やがて松本行きの普通列車が到着。

予想通り座れなかったので、一番前に乗り運転席後ろの「かぶりつき」を確保。

 

これ、僕のいつもの習慣です。

座れた時と同じ満足感があります。

ただし、疲れていない時に限ります。

今回は、ここまで3時間座っていたからね。

 

でも、すぐ横の席では2人掛けの椅子に、1人が足を投げ出して座っている。

こういうのを見るとイラッとする。

さっきまで駅弁食べて幸せだったのに。

 

 

上諏訪に着いたところで車内が空いてきたので、後方の席を確保。

さすがに今後の仕事の事を考えて、少し休憩にあてる。

目を閉じる・・・が睡魔はやってこない。

 

 

1時間ほどで塩尻に到着。

名古屋方面の中央西線との分岐点。

 

松本まではあと15分。ラストスパートなのだが、ここで列車は12分停車。

更に後から来た特急を待ち合わせするのです。

 

せっかくなのでホームに降りると・・・おぉ、素晴らしい光景が!