中村計「甲子園が割れた日〜松井秀喜5連続敬遠の真実〜」
2010年09月17日
初めての夏の甲子園を見に行き、その興奮覚めやらぬうちに見付けた本。
今もメジャーで活躍する松井秀喜選手が
石川・星陵高校3年で出場した夏の甲子園。
その2回戦で対戦した高知・明徳義塾から5打席全てで敬遠された事は、
当時の僕には『事件』にさえ写った。
明徳義塾の監督や選手に対する批判が起き、
当時の僕もそれに似たような感情を持った記憶がある。
では、その当事者たちは、どのような気持ちであの場面を迎えていたのか。
文中からは、当時報道されていたコメントのうち、
本意で無かったものが多くあった事が感じ取れる。
たぶん、その試合の記憶がある人ほど『えっ、そうだったの?』と言いたくなる証言だろう。
それらについて、本当に丁寧な取材がなされている。
取材対象の説明、取材が実現するまでの経緯。
本編である当人へのインタビュー、さらにはその言葉を
周りの人達や同じ立場の人にもぶつけ多角的に検証する。
両校の選手や監督、そのライバルたち、そして放送の現場で試合を見ていた人たちの証言も。
その証言内容は、とても自然に感じる。
正直に、思っていた以上でも以下でも無い、ありのままの言葉を集めたドキュメンタリー。
読んだ人によっては『期待した答えと違う』となるかもしれない。だからこそ、伝わる気がする。
その中で、何人かの証言に通ずるのは『野球観』とは別の『高校野球観』。
つまり『勝たなければいけない戦いなのだから敬遠も当然』という考えと、
『選手のこれからの事を考えたら勝負させるべき』という考え。
それぞれの考えには説得力がある。
それは自身が信念に基づいて実行し、結果を残してきたことにも繋がっているだろう。
読んでいけばいくほど、一つの試合の背景にこんなドラマがあるのかと思う。
派手なドラマでは無いが、その場に関わったひとりひとりにドラマがあるのだと分かった。
読む者を引き込む文章の力は、山際淳司さんの『江夏の21球』を思い起こさせた。